- 三枝結衣、31歳。2合理的で淡々としているが、十年前に海難事故で兄を亡くして以来、海沿いの道を避けている。
- 灯、13歳。母を病気で亡くした中学生。明るく振る舞うが、母に言えなかった言葉を抱えている。
- 久坂、68歳。元漁師。干潮時だけ姿を見せる古い赤いポストを、人知れず手入れしている。
海辺の小さな町で、最後の郵便局が閉鎖されることになる。 3 そのポストは干潮時だけ岩場に現れ、町では昔から 4 と呼ばれていた。
その中の一通は、中学生の灯が亡き母に宛てたものだった。灯は「お母さんがいない家で、私はいい子を続けるべきか」と書いている。 5
6 彼は、昔から町の人々がポストへ入れた手紙を読み、遺された人が一歩だけ前へ進めるように返事を書いていた。
ただし結衣は、その行為が優しい嘘であるほど危ういと感じる。 7 死者の声が、灯を生きている人々から遠ざけ始めていた。
閉鎖前夜、嵐が近づく。 8 海沿いの道を避け続けてきた結衣は、十年前に兄を失った夜と同じ潮の音を聞きながら、灯を追う。岩場で灯を見つけた結衣は、母は戻ってこない、と初めてはっきり告げる。灯は泣き崩れ、「じゃあ、私は誰の子でいればいいの」と叫ぶ。結衣は答えに詰まるが、自分もまた兄の妹でいることにしがみつき、今を生きる自分を置き去りにしてきたことに気づく。
翌朝、嵐のあと、ポストは半分壊れている。 9 事故の前、都会へ出ていく結衣を励ますために投函されたものだった。そこには「お前は港じゃなくて船だ。戻る場所を守るより、行きたい方へ行け」と書かれている。死者からの奇跡ではなく、生きていた兄が残してくれた言葉だった。
10 灯は母宛てではなく、未来の自分宛てに初めて手紙を書く。ラスト、結衣は閉鎖された郵便局のシャッターを下ろし、兄の手紙を鞄に入れて、海沿いの道を歩いて町を出る。